五輪塔って何？五輪塔の意味と構造について

五輪塔は、お経の記述を頼りにインドや中国で流行っていた仏塔を真似して石を5つ重ねて作られ日本独自の建築物で、その原型となる建築物はすでに平安時代末期に登場しました。
これに目を付けたのが真言宗中興の祖と呼ばれる覚鑁（かくばん）上人というお坊さんです。
覚鑁上人率いる高野聖（高野山で修行するお坊さん）たちは「五輪塔を建設し故人の遺骨や遺髪、写経をそこへ納めれば故人の魂は成仏するだろう」と説いて全国を行脚して回りました。
この影響で鎌倉時代に建てられた新しいお墓は、そのほとんどが五輪塔となり、今でもその多くが歴史的遺産として残されています。
五輪塔がお墓のスタンダードとして席捲する期間は江戸時代の中期まで続きましたが、やがて石塔タイプの墓石（現在のお墓のような長方形の墓石）が主流となり次第に廃れてしまいました。

覚鑁上人の素晴らしい点は五輪塔建設を通して仏教とお墓を密接に結びつけたことです。
それまでのお墓といえば、武士や一般庶民にとってはただの死体を埋める場所であり、その上に置かれる墓石は、人や馬がその上を踏んで通らないようにするための目印以外の何物でもありませんでした。
しかし、覚鑁上人達による五輪塔普及活動により、お墓は「死者を極楽浄土へ送り出す神聖な場所」として認識され、お参りや祭祀を行う場へと変化したのでした。

五輪塔は、上から宝珠形、半月形、三角形、円形、方形の石を積み重ねて作られており、これらの石はそれぞれ仏教界で地上を構成する5大要素である「空」「風」「火」「水」「地」を表現しています。
さらに、五輪塔の形は「手に印を結びつつ、口で経典を唱え、座禅を行っている」即身成仏の3つの修行形態を表現しており、亡くなった方が成仏した姿と重ね合わせられています。

五輪塔には、塔を構成する石の一つ一つに文字が掘られることが多く、下からサンスクリット語で「地・水・火・風・空」を意味する「ア・ヴァ・ラ・カ・キャ」となります。
しかし実際には各宗派の方針で、天台宗では「妙法蓮華経」を刻む場合が多かったり、浄土宗では「南無阿弥陀仏」と刻む場合が多かったりするなど、必ずしも「ア・ヴァ・ラ・カ・キャ」と刻まなければ行けないわけではないようです。

浄土真宗では五輪塔を建造しない決まりになっています。
これは、「故人は亡くなると、その瞬間に成仏し生まれ変わる」という浄土真宗特有の考え方からくるものです。
そのため浄土真宗では追善供養を一切行わず、追善供養の際に必要となる五輪塔も建設しません。
しかし、これは浄土真宗の一般的な考え方であり、浄土真宗でも五輪塔を建設したり、追善供養を行っている地域もあるので、気になった場合は菩提寺に問い合わせてみるのがよさそうです。

最後に、五輪の塔を建てる場合に必要な基本情報をお伝えしたいと思います。五輪塔を建てるためには、最低でも30～100万円程度のお金が必要になります。
使用する石材や装飾の緻密さ、難しさなどによって値段が大きく変動してみるので、建てる際は一度石材店に相談してみましょう。
また五輪塔は、一般的な和型のお墓と違って様々な種類の石材を使用することができます。色合いや石目などもかなり多くの選択肢があるので、いざ決めるとなると多くの人が迷ってしまうようです。
事前に建てたい五輪塔をイメージできていると店頭での注文がスムーズかもしれません。

五輪塔は一般的には発注から２～３か月を経て完成します。
お葬式の日に頼んでも納骨の日や四十九日には間に合わない場合が多いので、「その日」が来る前に頼んでおくようにしましょう。
最近では中国で石材を加工する業者が増えましたが、中国では春節（１～２月）と被ると職人が不足し結果的に、石材の完成が大幅に遅くなる場合があるので、この時期に五輪塔を発注する場合は注意してください。

いかがでしたか？五輪塔は遺髪や遺骨を入れる分お墓と同じくらいのお金がかかってしまいます。
しかし、五輪塔は故人が死後に極楽浄土で生まれ変わることを願って作られたありがたいお墓でもあります。
画一的な和型墓石の中に埋葬されるのが嫌な方や、戦国武将が眠るような五輪塔墓で自分も眠りたい方はぜひ五輪塔を建てることを検討してみてはいかがでしょうか。